昭和の高度経済成長期に建てられたらしい「ホテル旅館」は平成期に何度か建て替えられたようだが、観光地としての需要が減るにつれ、辺り一帯は寂れ、オーナーの努力も虚しく、廃旅館となってしまった。
旅館には様々な噂があった。その一つはこんなようなものだ。
かつて、オーナーには愛人がおり、客室で逢瀬を重ねていた。
関係に気付いた妻が部屋に複数の監視カメラを仕掛け、その様子を録画した。
裁判沙汰となる前に、ポルノ映画さながらの「証拠品」が愛人とオーナーの前に並べられた。
身を引かざるを得なかった愛人の生霊がその後、旅館でしばしば目撃された。
盗撮された「証拠品」を失意のオーナーが未練がましく、視聴覚室のプロジェクターで鑑賞しているのでは?と冗談を言う口さがない従業員もいた。
光陰矢の如し。そのような昭和の光景は過ぎた。
私は廃墟ホテルなどの写真を趣味で撮り集めていたので、人づてを頼り「廃墟系YouTuber」の方と一緒にその廃旅館を訪れた。
周囲の廃墟を巡った後、ちょうど夕暮れ時に私達はその旅館に着く予定だった。
桃色から血の色に空が変わる艶めかしい日没時の風景は、ちょっと気恥ずかしいが、廃墟には似つかわしいかもしれない。
と、そこに一人の美女が薄着で立っていた。
辺りには雑草、粗大ゴミ、崩れたコンクリートの破片、空き缶、ペットボトルなどが散乱している、ひとけなどない場所の筈だった。
そのような廃墟を今日、私達は車で幾つか巡ってきた。
廃ホテル旅館のあるべき場所には、まるで建て直されたばかりのような新築の旅館が建っている。
彼女がなぜか靴を履いていないのが気になった。
旅館の前に着いた私達は、おかしいと思いながら、彼女におずおずと声を掛けた。「ここに以前、旅館があった筈なのですが…」
彼女はにこやかに答えた。
「オーナーのお子さんが戻られて、建物を再建されたんです」
そんなような話は聞いてないが、私達の調べた住所が間違っているのだろうか。
私達は彼女の肌も露わな姿に戸惑いながら、新築だという旅館の入口を見た。
「まだ、オープン前なのですが、見学されますか? テレビの撮影か何かですか?」
YouTuberは小型のカメラを構えながら無遠慮に撮影を続けていた。
「宣伝いただけるなら、是非。オーナーもよろこびますので」「まだ少し散らかっていますが…」
私達は彼女の後について、新築らしいのだが、どこか回顧趣味のような、1980年代っぽいホテル旅館に入った。
私はそこで彼女の写真を撮らせてもらった。
これは証拠の一枚だ。
その後、私達は地下の宴会場で彼女の歓待を受けた。
YouTuberは生配信を行っていた。
あまりにも美味い酒と彼女の話題の豊富さに、私達は時間の経つのを忘れた。
と、そこからはよくある話かもしれないのだが、明朝、強烈な悪寒と共に目覚めた。
私達は何もない廃墟の部屋で酔い潰れていた。
そこは元オーナーの視聴覚室で、プロジェクターの繋がれたVHSデッキにはテープが入り、酔った誰かが再生したのか、破れたスクリーンには色褪せた映像が密やかに流れていた。
昨日見た愛人らしい女性がスクリーンで、愛情の籠もった目で私達を見下ろしている。
画像は全て上田カズヤ© Stable Diffusionを主に使ってphotoshopで仕上げ。
画像生成AI・AI美術に惚れ込んだのでひたすら生成し続けています。